二度目の初恋
時任さんはすぐに予約を入れていたレストランにキャンセルの電話をし、

ルームサービスを頼んだ。

私はと言うとソワソワする気持ちを落ち着かせようと窓からの景色を見てた。

「落ち着かない?」

電話を済ませた時任さんが私の横に立った。

「…正直ちょっと」

私が苦笑いをすると時任さんは小さく溜息をつきながら

「俺も落ち着かないよ」と頭に手をやる。

照れくさそうに言う時任さんに再び鼓動が早くなった。


それからしばらくすると注文した料理が部屋に運ばれてきた。

ワインとオードブル…それにつまみになりそうな物が数点。

テーブルは料理でいっぱいになった。


「…やっぱり居酒屋の方がよかった?」

お酒のせいなのか時任さんの目は少し潤んでいるようだった。

そんな目で見られたら私はどう対処すれば良いの?

「いいえ、ここまでしてもらって本当に申し訳ないと言うか・・・」

疑似恋愛なのに・・と言おうとしたがその言葉を私は飲込んだ。

時任さんはフッと笑って「良かった」というとワインを一口飲んだ。

その一つ一つの動きが自然でとても綺麗で

いつもは普通に話せるのに今日の私は視線すら合わすのが恥ずかしかった。


素敵な服に、美味しい料理とそれに見合う都会の夜景、目の前には

モデルのようなイケメンの実業家。

私の人生初のデートは描いていた事よりも上の上を行く物だった。

でも・・・

素敵な時間を過ごしててもこれは本物の恋愛ではなく作られた物。

疑似恋愛だってことを思い出し、気持ちが重くなっていた。
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