二度目の初恋
ちらりと横に座る円を見ると今にも泣きそうな顔でハンカチを強く握りしめていた。

そして「ネットか」と力なく呟いた。

きっと新婦のことを亮太は話していなかったのだろう。というよりも

あいつの性格からしてきっと話せなかったのだろう。

だがこれで終わったわけではなかった。

なんと円は新郎の友人代表で歌う事になっていたらしいのだ。

名前を呼ばれた円はすくっと立ち上がるとマイクの前に立った。

円は新郎新婦に会釈をしていたが、引きつった表情が痛々しく

何で亮太は彼女にこんなことをさせたのだ?と

俺は亮太を睨んだ。

だが薄暗い会場で俺の睨みなど亮太に届くはずもなく


それでも円は歌いきった。

しかも驚くほど歌がうまかったことに俺は違う意味で驚いたのだった。



大きな拍手をおくられながら円が戻ってきた。

だがその表情は歌う前よりも酷く悲しそうで

もう俺は声をかけずにはいられなかった。

だがどうやって声をかけたら良い?

円の事は俺が引き受けたと亮太に言ったものの

これといって何か案があったわけではなく状況をみて考えるつもりでいた。

初めて話す円にインパクトを与えつつ、少しでも気が紛れ、

少しでも話を聞ける状況にするにはどうしたらよいのか・・・

考えて出た最初の言葉は


「アンタ、目が笑ってなかったけど、あいつのこと好きだったの?」
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