ダブル王子さまにはご注意を!
このままじゃいけない。
あり得ない場所に心が向く前に、ブレーキをかけなきゃ。
大丈夫、私は今まで相手がいた人を好きになったことはない。ちょっといいな程度で終わらせてきた。
だから、これだって大丈夫。私はできる。不毛な思いなんて絶対にしない。
ぎゅ、と手のひらを握りしめて唇を噛みしめた。絶対に認めない、と心に呟いてから唇の端を上げて笑顔を作る。
そのまま、勢いをつけて顔を上げた。
「大丈夫……だから! 私は元気だよ。心配かけて申し訳ない」
たはは、と頭を掻きながら一樹に苦笑を向ければ、なぜか彼は複雑な顔で私を見る。
「おまえ……」
彼が、なにか言いかけた時。
金属音が擦れる音が響いて、忘れられない声が聞こえた。
「……いつき、くん?」
ふわり、と風に乗って香るのは今日嗅いだばかりの独特な薫り。
そちらを見た一樹の顔に、驚きが浮かぶ。そして……彼は呟いた。
「……いくみ?」
とても愛しそうな、聞いたことがない優しい声で――。
最愛だろう女性――郁美さんを見つめてた。
一樹が好きなひとと再会した。
たったそれだけのことなのに。
どうして、私の胸がこんなにも痛むんだろう――。
その理由を、私は絶対に認めたくはなかった。