ダブル王子さまにはご注意を!



ビシッ、と近くの木の幹に穴が空いた。顔のすぐそばで。


心臓が止まりそうなくらい驚いて、それ以上動くことなんてできるわけがない。足がすくんでガクガクと全身が震える。汗がふきだして、悲鳴を上げないようにするだけで精一杯だった。


私を、狙ってる。


水分を含んだ冷たい風が頬を撫でて、さあっと通り過ぎる。風下から、落ち葉を踏む音が聞こえてきた。


どくん、どくん。


全身が心臓になったみたいに、強く脈打つ。


(誰か……助けて)


誰か……誰か……誰か!


黒い影が向こう側に見えた。


「―――!!」


思わず、叫んだ刹那――


「伏せろ!」


聞こえた叫び声に、反射的に身体を動かした。


ザン、とすぐそばで土を踏みしめる音がして間もなく、図上でダン! と耳慣れない音が響く。


そして――


それきり、静かになった。


「真由理!」


聞こえたのは一樹の声で、ほっとした瞬間全身から力が抜けてへなへなと座り込んだ。


「すまない、遅くなった。ケガは?」

「……してない……けど……」


緊張の糸が切れた瞬間、ぶわっと涙がこぼれた。


「こわ……かった……怖かったよ! 一樹……!」


恥も外聞もなく、一樹にしがみついてしゃくりあげた。


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