ダブル王子さまにはご注意を!





妙な匂いがして、がさがさと音が聞こえる。


(え……なに?)


まぶたが重い……けど。無理やり開いてみれば……ちらっと視界のすみに捉えたのは、柔らかく色素が薄い髪の毛。


タンタンタン、とリズミカルな足音が遠ざかっていくにつれ、驚愕にとらわれた。


(え……なんで? なんで彼女がここに……しかも走り去った?)


どういうこと? と声を出そうとして愕然とした。


(声が……出ない!?)


それどころか、身体が上手く動かせない。呼吸も苦しくなってきた……。この変な匂いのせい? 部屋に満ちる霧のような煙のようなものは、もしかすると何らかのガス?


(ヤバい……このままだと死ぬ)


気力を起こして目だけ動かすと、護衛についた人が倒れてる。やっぱりガスにやられた? けど、どんどん呼吸が苦しくなって。新鮮な空気が欲しくなる。窓へいきたくて懸命に身体を起こそうとするけれど、ダメだった。ホントに指すら動かせない。


頭が、ぼんやりしてきた。指先から冷たくなってる。このまま死ぬのかな……って考えたら、急に怖くなってきた。


(なんで……よ。私……そんなに悪いことした? なんで私が死ななきゃならないのよ)


バカ、と呟いた……つもりだった。


“いつきの、バカ。好きくらい言わせろ”


渾身の力を振り絞ってそう呟いた後、意識を手放した――。


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