ダブル王子さまにはご注意を!
「こっちだ」
一樹は油断なく様子を窺いながら、安全を確認した上で合図を送ってくる。頷いた私はなるべく足音を殺して彼の元に素早く駆け寄った。
ドキドキと速まる鼓動は、緊張や一樹と二人というシチュエーションのためだけではなくて。
夜の病院は……はっきり言って不気味だ。
しんと静まり返った中で自分の足音だけとか。昼間と同じ光景なのに、暗くなっただけで何かが潜んでいそうな怖さがある。
情けないけど、ちょっと震えてる私に一樹が訊いてきた。
「怖いか?」
「……暗闇がね。夜の病院って苦手……なんか出そうだから」
私がそんな答えを返せば、プッと一樹は吹き出しおったよ!
「なんだ。てっきり連中にビビったかと思えば」
「私には、オバケのほうが怖いわ!」
クワッと目を見開いて怒鳴れば、いきなり手のひらで口を塞がれた。
「ばか! こんな時に大声を出すな」
そりゃそうだ。だけど……鼻まで塞がないでくださいますか? 呼吸ができなくてヤバいんですが……。
ちょっと川向こうに死んだおばあちゃんと花畑が見えてから、ようやく呼吸が再開できましたが。