ダブル王子さまにはご注意を!
「そういえばお化け屋敷へ探検に行ったこともあったな。あんたは泣いてばかりだった」
「うわぁ……そんなしおらしい時期があったんだ」
まだそれほど思い出した訳じゃないから、こうだと言われても実感がない。でも、一樹は満更じゃなさそうだ。
「あんたはよく絵を描いてたからな。どちらを先に描いてもらうか夏樹とよくケンカをした」
フッと表情を和らげた一樹は、遠い目をして呟いた。
「いつまでもあのままで居たかった……だが、時は流れて人は嫌でも大人にならねばならない。自分の立場も役割も……あの頃は何も知らない子どもだった」
「一樹……?」
彼の目が苦痛に満ちた悲哀を帯びて、やりきれなさが胸に響く。
「……オレに……自由はない」
「え?」
「……オレは所詮……夏樹の身代わり……スペアに過ぎない……」
「一樹……それはどういうことなの? 自由がないって……」
どうしても気になって訊ねてみるけど、一樹はすぐに元の顔に戻り目を閉じた。
「いや……気にするな。ただの独り言だ」
それだけを告げた彼は、何事もなかったかのように先を進んだ。