ダブル王子さまにはご注意を!
「だから、しばらく待て」
「なんでよ! 郁美が危ないんだよ。早く助けなきゃいけないじゃない」
声を潜めながらも抗議を止めることができない。そんな私に、フッと一樹が口元を緩めた。
「……やはり……変わらないな、おまえは」
「え?」
薄闇の中なのに、彼がこっちを見ているとなぜだか判る。そして、懐かしい目付きだということも。
ドキン、と鼓動が高くなる。
(いやいや……だから私、ときめいてる場合じゃないってば!)
自分を戒めるために頬をつねると、すぐ間近でパンパンと爆竹のような音が響く。そして、ほどなく足音が遠ざかっていった。
「……よし、周囲の安全は確保された」
耳に装着した無線で連絡があったらしい。一樹は頷いて腕時計型の端末を操作した。
「ここから50m先の温室に郁美がいる。今はとにかく先を急ごう」
そう告げた一樹に頷いて、彼の後に続いて走る……けど。運動不足に加えて、ガスの影響で身体の動きが鈍い。すると、一樹が私の手を握りしめた。
「しっかり捕まってろ。何があっても放すなよ」
「う、うん」
彼の、夏樹とは違う節くれだったぶ厚い手に。呼吸が苦しくなりながらも必死に着いていった。