ダブル王子さまにはご注意を!



「ほら、笑顔、笑顔! 明日からまた忙しいんですから。暗い顔しちゃ駄目ですよ。じゃ、おやすみなさい!」


大げさに手を振って軽やかな足どりを演じながら……遠ざかるごとに重くなる足。誰も見えない場所に逃げ込んだ私は、一人静かに涙を流した。


「うぅ……ああ……」


さりげなく助けてくれる早乙女さん。困ったことがあったりクレームがあると必ずサポートしてくれた。一緒にお客さまの家に謝りに行ったことも何度もある。

優しさもあるけれど、厳しい面もあって。でもそれはぜんぶ私を育てるためと今は知ってる。

麺類ばかり好きな早乙女さん。

お客さまに好かれてる早乙女さん。


あちこちで転ぶ早乙女さん。


来月の転勤の前に……せめて彼女になりたかったな。


寒空の下、気のすむまで声を上げて泣き続ける。


中西 真由理(なかにし まゆり)25歳。2年半に渡る片思いは10回目の失恋で幕を閉じました――。
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