ダブル王子さまにはご注意を!
(それにしてもへたな絵。かなり小さい子どもの時だよね)
「この絵を描いた人とまた逢いたいんです」
私がいい加減な思考をしていることも知らず、幸村さんは真面目に訴えてくる。
「そうですか……でも、それならば住んでた場所や通ってた幼稚園なり保育園に当たればいいのでは? 私が住む意味はないと思いますが」
「住んでいた場所は取り壊されてしまっていて……お世話になってた園はなぜか不明なんです。だから、地元に詳しいあなたならヒントを見つけていただけるかと。
一緒に住むというのはあくまでも便宜上です。せっかくの休みにわざわざ支度していただき外でお会いするのも申し訳ないですから」
「……でも、やっぱり変ですよ。一応私は店員であなたはお客さま。それに仮にも男女ですし……」
「必要ならあなたのご家族やお友達にもきちんとご挨拶しますよ。仮にも恋人ってことにすれば、角も立たないでしょう」
「……恋人?」
「あくまでも便宜上で本当になるわけではありません。大丈夫、僕には他にちゃんと好きな人がいますし、日中はハウスキーパーがいますから安全ですよ。それに部屋には鍵がかかりますし、何より日常生活の面倒はすべてこちらにお任せください。衣食住すべてを責任を持って見させていただきますから」
にっこり、と音が立ちそうなほど満面の笑顔の幸村さんの提案に私が頷くはずもなく……
「断ったらあの支店だけでなく、お店を幾つか潰しますからね?」
腹黒い笑顔の前に……小市民な意気がりは無意味でした。