ダブル王子さまにはご注意を!
「どうしたの?」
「いや……デザートでも作ってるのか? 甘い香りがするが」
「違うと思うけど……」
一樹の隣に寄って風の匂いを嗅いでみると、ひんやりした風に混じるのは嗅ぎなれた華やかな甘い薫り。
「あ、これ。金木犀(きんもくせい)だよ。ちょうど今ごろ盛りになるから、町中が甘い香りに包まれるの。ほら、あのオレンジ色の小さい花がそう」
庭の裏に植えられひっそりと咲く金木犀。春の沈丁花と一緒で、季節を実感させてくれる貴重な花だった。
「金木犀……この薫りが……」
一樹はそう呟くと、なぜかそれきり黙ったまま。そして、難しいような顔で和室に座り込んでしまう。
「なに? 金木犀がどうかしたの?」
「こうなったら一樹はテコでも動きませんよ。気の済むまで好きにさせるしかありません」
弟のことをよく知る夏樹がそう告げたから、きっとその通りなんだろうけど。何だか不安を感じたのは……どうしてなんだろう?
「一樹……よけいなことは思い出さないでくださいね」
そう夏樹が独りごちたことも、私は知らなかった。