ダブル王子さまにはご注意を!
「あ、私中西 真由理っていって303の相部屋にいるんだ。名前訊いてもいい?」
「まゆり……?」
一瞬――どうしてか彼女は眉を寄せたけど。すぐに笑顔になって自己紹介をしてくれた。
「わたしは藤井 郁美(ふじい いくみ)。707に入院してます」
「藤井さんか~いつから入院してるの?」
「さぁ……」
彼女……藤井さんは車椅子を動かし私に背を向けると、左手で鉛筆を持って続きを描き始めた。
「憶えてません。小さなころの記憶はすべて白い景色ばかりでしたから……」
「そ……そか」
シャッシャッと鉛筆が画用紙の上を滑る音がやけに耳に届く。藤井さんは何も言わないけど、さすがに無神経過ぎたな……って後悔が胸を苛んだ。
彼女の弱々しい様子からすれば、きっと簡単には治らない病気なんだろう。今までの人生の大半を病院で過ごしていたなら……と、やりきれない気持ちになった。
「あの……ごめんなさい。私……軽々しく訊いちゃって」
ピクッ、と鉛筆を持つ手が震えるけど、そのまま止ることなく景色を写し取っていった。
「……いいんです。よく訊かれることですから。中西さんも気にしないでください」
そのまま静かに絵を描き続ける彼女の邪魔をする訳にはいかず、しょんぼり落ち込みながらその場を後にした。