惡夢
その時、またしても倉科の携帯が鳴り響いた。その携帯を左ポケットから取り出し、海に投げ捨てた。画面は見なかった。決して凛音から目を離すことはなかった。
「行こうか。」
「うん。」
倉科が凛音を両手で抱えて、海の中を歩いていく。足取りは軽くないが、何歩か進んでいくとあっという間に水位が倉科の腰あたりになった。
「…もう眠い?」
「…うん。だから、手、離さないでね。最後まで、一緒にいてね。」
そう言って涙を流す凛音を見て、自分はなんて浅はかだったんだろう、と気づく。しかしもう止められない。
早くこのまま眠りにつきたいのに、まだ眠りたくない。凛音の本心同士の葛藤。
凛音はすでに腕の中で目を閉じている。まだ意識はあるようだ。
「おやすみ。」
まだ濡れていない髪は風で静かになびいている。
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