惡夢
「良い子は帰る時間だけど。」
前を見つめて運転する倉科の言葉に、凛音は首を傾げる。
「久しぶりのデートなのに、そんなに早く家に帰したいの?」
「んなわけないだろ。」
 目の前に見えてきたのは、派手なネオンの看板があるホテルだった。凛音はここをよく知っている。夜のデートの最後はいつも決まってこの場所だから。
 
 2人は車から降り、それらしく腕を組んで建物内に入っていく。
「メリーゴーランドのある部屋なんて、どうよ。」
「やめてくれ、萎える。」
結局いつもと同じ部屋を選び、ドアを開ける。
凛音はベッドに直行して顔面からダイブした。
「あー。ふかふか。幸せ。」
「風呂は?」
「シャワー。」
「うい。」
シャワーの順番はいつも凛音が先。フロントに置いてあるカラフルな入浴剤も気になるのだが、風呂を沸かすのも浸かるのも面倒臭いので使ったことは無い。よく体を洗い流してガウンを羽織って部屋に戻る。
「おまたせ。」
「おう。」
窓辺の椅子に脚を組んで座り、返事をする倉科は、凛音の方を見てくれない。虚ろな目で開いてるはずもない窓を見つめてるのだ。凛音はそれを見てため息をつく。
「早くシャワー浴びてきて。風邪ひいちゃう。」
「ああ。」
シャワールームに消えていく倉科を見て、再び深いため息をつくのだ。
凛音はそっとベッドに横たわる。2人で寝ても充分広いこのベッドは、1人ではあまりにも寂しすぎる。
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