【完】私の甘い彼氏様
「で、中学に上がったとき…心羽の母親が…、死んだんだ…」
この言葉を口にするのは今でも心苦しい。
心羽は俺にとって今でも大切な人だから。
「心羽の母親はいつも心羽を大事に思ってくれていた。心羽の家での唯一の心の拠り所だった。
心羽の父親は、心羽の母親や心羽にも、暴力をする人だったんだ」
あの頃、心羽がいつも俺の家にいたのはそれが理由だった。
家に帰れば父親に殴られる、蹴られる。
お陰で心羽の体には傷だらけ。
でも、体の傷より心の傷がもっと深かった。
俺や家族に隠れていつも泣いていたのを俺だけは知っている。
「心羽の母親が死んだのは、癌が理由だった。でも、それを知っていたのは母親だけ。自分が入院をすれば心羽が一人になってしまうから」
心羽にだけ暴力の矛先が向かうのを抑えたかったんだろう。
自分のことより心羽の心配をする心羽の母親は、母親の鑑だと、そう思った。