プロポーズ

男性は、磯田哲郎だったのだ。


「えっ」


あたしはぎょっとした。

磯田哲郎は、あたしが24歳のときにつきあっていた男だ。交際期間は短かったが、あたしにプロポーズしてくれた。

でも、当時の彼の年収は300万ちょっと。そして、会社の賃金体系では、その後もあまり上がらないのだという。

哲郎は、性格は悪くなかったが、あまりにもあたしの条件とかけ離れていた。

あたしは彼のプロポーズをことわって、別れた。

なのに……。


なに、それ、家賃補助って。

180万円も補助が出るなら、300万と合わせて、480万円じゃない。

あたしの条件、満たしてるじゃない。


ひどい。

どうして言ってくれなかったの。

言ってくれていたら、プロポーズをオーケーしていたかもしれない。

そしたら今ごろ、この部屋にはあたしがいて、二人目の子供を妊娠していたかもしれないのに……。
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