イジワルな彼に今日も狙われているんです。
私はにっこり、わざとらしいくらいの満面の笑みで尾形さんを見上げる。



「そうですか。ではどうぞ私のことなんてまったくもってお気遣いなく、ご自分の普段のペースでお先に駅へ向かってください。私の短い足じゃ、すばらしく長いおみ足を持つ尾形さんのまさに足でまといですから」



言ってしまってから、私はハッとした。

今さら我に返ってももう遅い。こわばった顔でおそるおそる見遣った尾形さんは、不意をつかれたように目をまるくしていた。

い、今のは間違えた。仮にも先輩といえる人にひどい嫌味な態度をとってしまった。

これがアニメやマンガなら思いっきり青い顔をしているであろう私がなんとか言葉をしぼり出すより先に、尾形さんが動く。



「っふ、」

「っ?!」

「くっくっく……ああ、なんだおまえ、意外とおもしろい性格してんじゃん」



笑いをかみ殺しながらそんなことを言う尾形さんに、私は唖然とする。

……え、今のって、笑うところだった?

おもしろい、とか、言われたの初めて……。



「かわいーかわいーって、いっつもまわりからちやほやされてるみたいだしさあ。俺勝手に、おまえのこと甘ったれでめんどくさそうなゆるふわ女子だと思ってたわ」

「は? え?」

「わりーわりー」



え? なんか今目の前で堂々と悪口言われた??

いや、というか、思ってたイメージと違ったにしてもわざわざそれを本人に言わなくても……。


つい足を止めて固まっていた私の顔を、尾形さんがひょいっと身体を屈めて覗き込んでくる。



「あ、怒った? これでも俺悪気はないんだけど」

「……あの、尾形さんって、デリカシーないとか言われたことありません?」

「あーそれ、付き合い長いやつにはしょっちゅう言われるわ」
< 13 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop