イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「覗きとは趣味が悪いな、木下 さなえ」
触れられた頭に片手をやりながら、バッと勢いよくそちらを見上げる。
そこには同じ会社とはいえ広い自社ビル内ではめったに顔を合わせることがない、先輩男性社員の姿があった。
意地悪そうに口角を上げてこちらを見つめるその様子に、私はついムッとくちびるを結ぶ。
「……好きで鉢合わせたわけじゃないんですけどね、尾形 総司さん」
先ほどの彼に倣ってフルネームを返し、言うが早いか前へと向き直り足を動かす。
彼ももうこの場所には用はないらしく、同じように廊下を歩き始めた。
「さすが、モテますね。量販営業部のさわやか王子さん」
一緒の方向に歩いているのにずっと無言なのも気が引けて、ポツリとそんなことを言ってみる。
ひそかにうかがい見た尾形さんは、正面を向いたままその端整な顔にニヒルな笑みを浮かべていた。
「いーえー? 我がブルーバード本社内で不特定多数から『彼女にしたい女子社員』との呼び声が高いマーケティング部の華・木下 さなえ嬢ほどでは。……つーかその『さわやか王子』ってあだ名そっちの部署でも浸透してんの? やめてくれとは言わないけど、実際俺そんなさわやかでもねーぞ」
「結構みんな知ってると思いますよ? 宇野さん──先代の量販営業部所属王子様が九州支社に転勤しちゃったから、『王子様』の呼び名を途絶えさせないようにってことで尾形さんがあだ名を引き継いだんでしたっけ。中身はともかく、尾形さん見た目はわりとさわやかですよ? 中身はともかく」
「おい、なんでわざわざ2回言った」
さらりと織り交ぜた揶揄にそれを補って余るくらいの嫌味を返されたので、またさらに嫌味を上乗せして放り投げる。
この人は先輩ではあるけれど、こういった仕事外の雑談なら遠慮することはしない。基本的に人見知りな私にとって、こんなふうに気安く話せる年上の人──しかも男性の存在は、とてもめずらしく貴重だ。
触れられた頭に片手をやりながら、バッと勢いよくそちらを見上げる。
そこには同じ会社とはいえ広い自社ビル内ではめったに顔を合わせることがない、先輩男性社員の姿があった。
意地悪そうに口角を上げてこちらを見つめるその様子に、私はついムッとくちびるを結ぶ。
「……好きで鉢合わせたわけじゃないんですけどね、尾形 総司さん」
先ほどの彼に倣ってフルネームを返し、言うが早いか前へと向き直り足を動かす。
彼ももうこの場所には用はないらしく、同じように廊下を歩き始めた。
「さすが、モテますね。量販営業部のさわやか王子さん」
一緒の方向に歩いているのにずっと無言なのも気が引けて、ポツリとそんなことを言ってみる。
ひそかにうかがい見た尾形さんは、正面を向いたままその端整な顔にニヒルな笑みを浮かべていた。
「いーえー? 我がブルーバード本社内で不特定多数から『彼女にしたい女子社員』との呼び声が高いマーケティング部の華・木下 さなえ嬢ほどでは。……つーかその『さわやか王子』ってあだ名そっちの部署でも浸透してんの? やめてくれとは言わないけど、実際俺そんなさわやかでもねーぞ」
「結構みんな知ってると思いますよ? 宇野さん──先代の量販営業部所属王子様が九州支社に転勤しちゃったから、『王子様』の呼び名を途絶えさせないようにってことで尾形さんがあだ名を引き継いだんでしたっけ。中身はともかく、尾形さん見た目はわりとさわやかですよ? 中身はともかく」
「おい、なんでわざわざ2回言った」
さらりと織り交ぜた揶揄にそれを補って余るくらいの嫌味を返されたので、またさらに嫌味を上乗せして放り投げる。
この人は先輩ではあるけれど、こういった仕事外の雑談なら遠慮することはしない。基本的に人見知りな私にとって、こんなふうに気安く話せる年上の人──しかも男性の存在は、とてもめずらしく貴重だ。