イジワルな彼に今日も狙われているんです。
すれ違う社員たち全員に、なんだか微笑ましいものを見る視線を向けられている気がする。
理由は、わかりすぎるくらいわかっているのだ。私は羞恥心からくるため息をこっそり吐きつつ、腕の中のもふもふに顔を埋めたまま歩き続けた。
そう、これ。
私が今抱っこをしているこのもふもふが、やけに周囲の視線を集めている原因。
言ってしまえばまあ、これっていうのは私の両手をいっぱいに広げないと持てないくらい大きな、白いテディベアのことだ。
黒いまんまるな瞳はキラキラと輝いていて、首につけた青いサテンリボンがふわふわの白い毛にマッチしている。
こんなメルヘンかつ目立つ大きさのものを抱えて社内を歩くのはいい大人としてはやっぱり少し恥ずかしいから、ほんとはなるべく人と会わないように自分の部署まで戻りたいんだけど。
だがしかし、ここは8階。マーケティング部のオフィスは12階にあるから、まずはエレベーターホールに向かって歩かなくちゃいけない。こんな大きい物抱っこしたまま、階段使うのは絶対危ないし。
とりあえず、あと少しの辛抱だからがんばろう。そう気合いを入れ直した私は、テディベアにまわした手に力を込める。
そうして無事エレベーターホールに到着すると、ちょうど下から上がって来たエレベーターのドアが開くところで。
やったラッキー、なんて思いながら白いもふもふにほとんど埋まっていた顔を上げた私は、次の瞬間ピシッと音が聞こえそうなほど硬直した。
「ひえ……っ」
思わず、情けない声を小さくもらす。
だって、今まさにエレベーターから降りてきた人物が──ここ最近ずっと顔を合わせまいとしていた、尾形さん本人だったから。
ああもう、週末の休み明けから今日の木曜日まで、一度も社内で会わずに済んでたのに……っなんでよりによって、こんな逃げにくいタイミングで会っちゃうの……??!