イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「……ふーん。あっそ」



尾形さんはやはり普段と同じ調子で、こちらの返答にうなずいた。

そして予想通り、私の手元に視線を落とす。



「つーか、さっきから気になってたんだけど。なんだよそのメルヘンなでかいクマは」

「これは……さっきブランド戦略部に用があって行ったとき、これが段ボールに入ってホコリをかぶっているのを見つけまして。伊東部長によれば何年か前の懸賞で使った景品の見本らしいんですけど……部長が『よかったらあげるよ』って言うから、それで……」



テディベアで顔の下半分を隠すようにぽそぽそと答えながら。

私は途中から、尾形さんが自分の口元に手をあてて笑いを堪えていることにちゃんと気付いていた。

だから私はまだ話し終えていないことも構わず言葉を切ると、むっと眉を寄せて彼を見上げる。



「あの、尾形さん。さすがに笑いすぎだと思います」

「くく、いや、だってさあ……っそのもこもこメルヘン白クマ、尋常じゃなく木下に似合ってるから……っ」

「………」



半眼の冷ややかな眼差しで無言の抗議をする私に、「わりーわりー」と軽く言って。

ぼすぼすとテディベアの頭を2回叩いた尾形さんは、そのままあっさり私の手から件のぬいぐるみを奪った。



「いいもん見せてもらったし。コレ、俺が運んでやるよ」

「え……っ」



とっさに、驚きの声を上げてしまう。

そんな私の反応なんてお構いなしで、尾形さんはエレベーターの上りボタンを押した。



「このままマーケ部戻るんだろ? そこまで一緒に行ってやる」

「や……っい、いいですよそんなの! というか尾形さん、何か用事があってこの階に来たんじゃ……」

「別に、俺の用は急ぎじゃねぇし。多少寄り道したって平気平気」

「で、でも……っ」
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