イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「す、すみません尾形さん、お手数おかけして」

「別に、たいした手間じゃねーよ。それよりおまえ、こういうときは『すみません』より『ありがとう』の方がポイント高いぞ」



テディベアの片手をかわいらしく動かしながらそんなことを言う尾形さんに、ぐっと言葉を詰まらせる。

……たしかに、ひたすら謝られるよりは、素直にお礼言われた方がきっと気分いいよね。

何ともいえない羞恥心で熱くなる頬を両手で隠しつつ、私はおそらく不本意そうな表情をしてちらりと彼を見上げた。



「ありがとう、ございます……」

「……ん。よし」



満足そうに笑った尾形さんが、一度だけ私の頭を叩いて歩き出す。

その手が触れた箇所を自分でもそっと撫でてから、彼のあとを追った。



「マーケ部行くの久しぶりだなー。あ、佐久真さん元気?」

「え、あ、そっか、去年の3月まで同じ部署だったんですもんね。元気ですよー。たまに仕事中叫んでます」

「ははっ。相変わらずだなーあの人も」



他愛ない話をしながらマーケティング部のオフィスを目指す。

大きな白いテディベアを抱える尾形さんはやっぱりまわりからチラチラ見られているんだけど、そんなこと本人は全然気にしていないみたい。

いつだって堂々としていて、自分の言いたいことをはっきり言う。

尾形さんのこういうところは、私にはないものだから。すごいなって、素直に思うところだ。

……まあ、デリカシーのない発言も懲りずにしちゃうところが、たまにキズだと思うけど。
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