イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「怪我は? どっか痛めたりしたか?」

「え? た、たぶん大丈夫だと、思います……」

「そうか」



再度嘆息した彼によって、くしゃりと髪を乱暴に撫でられた。

あたたかい、いつもの尾形さんの手だ。そう思ったら、今になってじわりと目元が熱くなってしまった。


おとなしくしている私の涙目をまっすぐに見つめながら、尾形さんが続ける。



「木下おまえな。たぶんおまえ自分でも思ってる以上に相当トロくて危なっかしいんだから、マジで気をつけろよ。頼むから」



言っている内容は結構ひどいし失礼だと思うんだけど、尾形さんがまるで懇願するように切なげで、真剣な表情をするから。私は文句を言うことも忘れ、ただこくりとうなずいた。

そんな私の反応に、一応は満足したらしい。尾形さんはため息とともに肩の力を抜いて、ワックスで整えられた自分の頭をがしがし掻いた。



「まあ、今回は俺がいたから大事にならなくてよかったけど。あの高さなら骨折とか、打ちどころ悪ければ死ぬっていうのも有り得るからな? そこんとこほんと反省しとけ」

「ご、ごめんなさい……」

「だいたいな、この際だから言っとくけど、普段からおまえにはいろんな面で危機感とか警戒心が足りないと常々思ってたんだよ。こないだだって──、」



そこまで言った尾形さんがなぜかハッとして、不自然に言葉を切る。

そして同時に、自分の口元をこぶしで隠しつつ顔を横に向けるから。私は一瞬、そんな様子を不審に思う。


けれどもその、目に見えて私の視線から逃げたとわかる動きに。整った顔に浮かぶ、気まずそうな表情に。

私の中にくすぶっていたもやもやが消えて、あるひとつの確信めいた閃きがわき起こった。
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