イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「うーんそっかー。ああでも、」



とりあえずは納得してくれたらしい都さんがフォークで刺したミニトマトをぱくりと口に放り込み、やっぱり楽しげにまた話し出す。



「さなえちゃんに尾形くん、いいと思うけどね。文句つけようない美男美女カップルだから、お互いのファンも黙るしかないと思うし。ほらそれに、尾形くんは高身長だよー? 伊瀬くんと違って」

「ちょっと都!」



あわてたように声を上げたのは、珠綺さんだ。

そうやって彼女が都さんを制した理由はわかっているから、私はまた苦笑するしかできない。



「あんたねぇ、身内に対してはあらゆることに遠慮ないその姿勢もどうにかしなさいよ!」

「言っとくけどあたしちゃんとめちゃくちゃ空気読んでるよ。これでも」

「どこが!」



都さんのセリフに珠綺さんはすかさず反論する。でも私は、にっこり都さんに笑顔を向けた。



「都さん、私のこと身内ってくくりの中に入れてくれてるんですか? そうだとしたらうれしいですー」

「やだもうさなえちゃんはほんと素直でかわいいわあ。とっくに身内だと思ってるし、また今度飲みに行こうね~」



言いながら、にこにこ顔の都さんが私の頭を撫でてくれる。

そんな私たちふたりを、なんだかちょっと呆れ顔で珠綺さんが眺めていた。


都さんは、私と珠綺さんと伊瀬さんの間にあった微妙な出来事をすべて知っている。

そのうえで、今の私に伊瀬さんへの未練がないこともちゃんとわかってくれているから。当事者の珠綺さんと私が揃ったこんな場面でも、遠慮なく伊瀬さんの名前を出すのだ。

珠綺さんも、本当にもう気にしなくて大丈夫なのに。遠慮はいらないと以前から何度か伝えてはいるんだけど、それでもやさしい珠綺さんは私に対してどうしても後ろめたい気持ちを拭いきれないらしい。

……都さんは、すごくあっさり切り替えてきたけどね。あの清々しさはぜひとも見習いたいくらいだ。
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