イジワルな彼に今日も狙われているんです。
バッグの中の包みをどうしようかと考えながら、自社ビルのエントランスを抜ける。

……しばらくは持ち歩いといて、偶然会ったときに何気ない感じで渡そうかな。階段でのゴタゴタ以降見事なまでにすれ違い、今日このときまで尾形さんと顔を合わせていないことで、私はすっかり怖気付いてしまっていた。

こうなったら、私から連絡もするもんか。も、元はといえば、尾形さんが特に理由もなく私にキスなんかしたのが原因で気まずくなったんだから。こんなに私が悩んでるのも、おかしな話だよね……!


ぐるぐる脳内で思考を展開させていた私は、自然とうつむきがちになっていたらしい。

会社の敷地を抜けてしばらく歩道を進んでいたけど横断歩道の手前ですれ違いかけた誰かと肩がぶつかってしまい、ハッと顔を上げる。



「っあ、すみませ」

「ごめん、大丈──」



同時に声を出した私たちは、お互いの顔を見て固まった。

……だって。今まさに私を見下ろして、目をまるくしているのは──……。



「おがた、さん」

「……木下。悪い、どっか痛めなかったか?」



突然の遭遇に驚いてるだろうに、尾形さんがそう言ってすかさず気遣ってくれる。

単に軽く当たっただけで怪我なんてないし、ふるふると首を横に動かした。

尾形さんは、とこちらも訊ねてみれば、彼も同じように首を振って苦笑する。



「平気。ごめんな、少しぼーっとしてたわ」



……ああ、尾形さんだ。

なんだかもう、ずいぶん長いこと姿を見ていなかった気がする。実際は、最後に会ってから2週間も経っていないんだけど。

長身の彼を見上げながらそんなふうに思ったら、なぜかじわりと視界が滲みそうになってあわてて顔を伏せた。

ばか、私。なんで、泣きそうになんかなってるんだろう。


自然と歩道の真ん中から端の方にふたりでずれると、尾形さんがまた口を開いた。



「木下は、今もう帰り?」

「あ、はい……えと、尾形さんは、今日ずっと外にいたんですか?」

「そう。直帰したかったけど、机仕事も溜まってるし」
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