イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「これ、私から尾形さんに……いつもお世話になってる、お礼です」



箱の中身は、あまり甘いものが得意じゃなくてお酒好きな彼が食べられそうな、ウイスキーボンボンだ。

なぜだか震えそうになる指先に意識を集中させながら、私は小さく微笑んで尾形さんを見上げる。

尾形さんは、そんな私と自分の目の前に差し出された深緑色の包みを一瞬呆けたように見比べた後。そっと、それを受け取った。



「ああ……わざわざ悪いな。さんきゅ」



私がたった今渡した長方形の包みを片手に、尾形さんが笑みを浮かべる。

その表情を見た瞬間、なぜかきゅっと胸の奥がうずいて。私は思わず彼から視線を逸らし、意味もなく自分のマフラーをいじった。

2月半ばの外気は冷たいはずなのに、やたらと頬が熱い。



「えっと……それじゃあ、私はこれで、」



なんだかソワソワ落ち着かないから、早いとここの場から退散してしまおう。

そう考えて脇をすり抜けかけた私の腕を、思いがけなく掴む手があった。

驚いて振り返った視線の先には、どうしてか軽くびっくり顔の尾形さん。……あの、驚いたのはこっちなんですけど。



「尾形さん?」

「……あー……待った木下、今日この後は予定あんの?」

「え、ありません、けど」



軽いびっくり顔から軽い困り顔にシフトチェンジした尾形さんの質問に、戸惑いつつも答えた。

私の腕を掴んだまま、「よし」と彼がひとつうなずく。
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