イジワルな彼に今日も狙われているんです。
それから、きっかり1時間と30分後。

無事仕事を片付けて来たらしい尾形さんと合流した私は今、彼とふたり電車に揺られていた。



「こっから電車で移動することになるんだけど、今日は俺の行きつけの居酒屋に行こう」



そう言った尾形さんに連れられるまま電車に乗ったはいいけど、車内は学生や仕事帰りらしい人々でかなり混んでいる。

座席が空いていないから、私と尾形さんはドア付近に立っていた。電車が揺れるたび尾形さんが気遣うように顔を覗き込んでくるから、その距離の近さに私はさっきから気が気じゃない。


電車は無事、目的の駅に到着した。普段自分はあまり利用しないその駅内できょろきょろしつつ、前を歩く尾形さんの背中を追う。



「悪かったな、わざわざ移動させて」

「あ、いえ……家から遠くなるわけでもないですから、大丈夫です」

「そか」



駅から外へと出ながらの謝罪に私が答えれば、尾形さんはやわらかく微笑んだ。

また、大きく心臓がはねる。な、なんか尾形さん、さっきから思ってたけど今日やたらといつもよりやさしい表情するから……いちいちびっくりして、ドキドキしてしまう。



「あの、尾形さんの行きつけの居酒屋さんって、どんなお店なんですか?」



うるさい胸を落ち着かせるように小さく深呼吸してから、訊ねてみた。

歩調を合わせてくれている尾形さんが、私の隣りで「うーん」と軽く上向く。
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