イジワルな彼に今日も狙われているんです。
すみれさんのことは、カタがついてた?

……私に対しての、尾形さんの気持ち?



「“失恋同盟”のこともあって話す機会が増えてから、木下がただの今風なゆるふわ女子ってわけじゃなくてすげーいい子だってことがわかって。たぶん最初は、『危なっかしい妹分をかわいがって守ってやりたい』みたいな、そんな感覚だったんだと思う」

「………」

「でもそのうち、ふとした瞬間おまえに触りたくなることが増えて。これはまずいなって思ってた頃、メシの帰りタクシーに乗った俺に向かって木下があんまりかわいく笑うから、酔った勢いのままついキスした」



ドキッと一際大きく心臓がはねた。

お互いなかったことにした、あのキスの話を。今初めて、尾形さんの方からしてくれている。



「あの後、相当悩んだよ。あのとき衝動的にキスしたのは、相手がおまえだったからなのか、それとも単に目の前に女の子がいたからだったのか、自分でもよくわからなかったから」

「……尾形さん、」

「考えても答えが見つからなくて、だから俺は、あのことを忘れたフリして木下に話しかけた。……今思えば相当最低なことしたよな俺。ごめん」



眉を下げて謝罪を口にする尾形さんに、ふるふると首を横に振ってみせた。


尾形さん、こんなに、悩んでくれてたんだ。

それがわかっただけで、もう。


頬から移動した尾形さんの右手の親指が、私の下くちびるをなぞった。

さっきまでより熱を持った瞳に射抜かれて、視線を逸らせない。
< 90 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop