イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「会社の階段で木下に怒られてから今日までも、またずっと考えてた。もう面倒くさいから、余計な先入観とかプライドとか全部取っ払ってさ。で、かっこ悪く開き直ったうえで木下と関わった今までのこと思い返せば返すほど、俺木下のこと、無自覚で特別扱いばっかしてんなって気付いて」

「とく、べつ?」

「うん。そのふわふわの頭見れば撫で回したくなるし、うまいメシ食わしてやりたくなるし、伊瀬さんと一緒にいるところ見たらイラッとしたし。今だってすみれたちの真似してこんな観覧車に乗ってみたところで、アイツらのこと考えるどころか今目の前にいる木下のことしか頭にないし」



尾形さんが笑う。私をからかうときに見せるみたいな、イタズラっぽい笑顔だ。



「木下、すきだよ。もう誤魔化したりしない。職場の同僚とか、兄貴分妹分みたいな関係じゃ嫌だ。俺はおまえのこと、恋人として大事にしたいと思ってる」


「抱きしめたいし、キスしたいし、思いっきり甘やかしてやりたい」


「俺の、彼女になって」



尾形さんの甘い告白の言葉が、ポロポロ降ってきて私の中に染み込んでいく。

……こんなの。こんなの、うれしくないはずがない。

私はやっぱり泣きそうになりながら、頬を包む彼の手にぎゅっと自分の左手を重ねた。



「こ、こないだ……尾形さんの家に行きたいって言ったら、拒否したじゃないですかあ……っ」

「あんときは、まだはっきり自分の気持ち整理できてなかったんだよ。そんな中途半端な気持ちのまま、おまえに手ぇ出すわけにいかないだろ。木下は同情のつもりだったかもしれないけど、気になってる女の子にあんなふうに誘われてぐらつかない男なんていないからな? 理性を総動員させてなんとか我慢したあのときの俺をむしろ褒め称えろ」
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