イジワルな彼に今日も狙われているんです。
眉間にシワを寄せて呆れたような顔をしている尾形さんに、私は思わずムッとくちびるをとがらせた。



「同情なんかじゃないです。私は尾形さんがすきなのにすみれさんのことばっかり見てるから、私の方も見て欲しくて、触って欲しくて、それで……」



話しながら、どんどん声が尻すぼみになっていく。

……私今、勢いですごく恥ずかしいことを言ってしまった気がする。

うん、えっと、というか。



「な、なんでそんな、笑ってるんですか」

「いや、笑うだろ。今木下、俺のことすきって言った?」



そう言って顔を覗き込まれる。私はまたぼっと頬を熱くさせて、思わず視線を逸らした。



「あの、尾形さん……」



ささやくように名前を呼べば、「ん?」とやさしさの固まりみたいな声音で返事をしてくれる。

それがうれしくて、もう、真っ赤な自分の顔を隠すことすら忘れてしまう。



「あの、……わ、私、ちんちくりんだし……全然、おもしろい話とかも、できないし……っ」

「ちっちゃくてちょこまか動いてるの見るとかわいいなって思うし、俺はおまえといてつまんない思いをしたことなんて一度もない」



ネガティブでつまらない私の話を、尾形さんはいとも簡単にうれしいものへとすり替えてくれる。

ああ、こういうところが。尾形さんのこういうところに、私は。



「……私が彼女で、いいんですか……?」



私じゃこの人を、ほんとの笑顔になんてできないと思ってた。

なのに今私の目の前には、極上の笑顔を浮かべて私を見つめる尾形さんがいる。



「他のヤツじゃ嫌だ。木下がいい」

「……ッ、」



もう堪えることができなくて、私はボロボロとみっともなく涙を溢れさせる。

誰かの、特別になれることが。たったひとりの人に選んでもらえるということが、こんなにも、うれしいものだなんて。

尾形さんは自分の手が濡れてしまうのも気にせず両手で頬を包み込んだかと思うと、あやすように私の目尻にくちびるを押し付けてきた。
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