イジワルな彼に今日も狙われているんです。
◇◆補則
「“失恋同盟”は、もう解散だな」
ウィングスタウンからの帰り道。隣りを歩く尾形さんが、つないだ手の先でイタズラっぽく笑いながらそう言った。
そっか、お互いもう新しい恋が叶ったから、“失恋同盟”はおかしいよね。その恋の相手がまさに同盟を組んだ仲間っていうのが、なんだか照れくさいけど。
私も思わず微笑みながらうなずく。
「そうですね。“失恋同盟”これにてカイサーン!、なんて」
「木下今のかわいかった。もっかいやって」
「えっ、な、やっ、やりませんよ?!」
つないだ手もそのままに両手をバンザイして元気良く宣言したら、どうやらその動作をお気に召したらしい尾形さんにアンコールされた。
単なる勢いでやった行動を真顔でまた強請られても困ってしまう。ふざけてるのか大真面目なのかわからないその催促をあわあわしながらとりあえず断れば、尾形さんは空いている右手をぽんと私の頭の上に乗せた。
「ちっこいなあ木下は。俺とこんなに体格差あって、大丈夫かなあ」
「な、何がですか」
「んー? まあ、これから絶対避けて通れないイロイロ」
「………」
社内でのあだ名にふさわしい、ものすごくさわやかな笑顔で言われた。
普段の尾形さんを知っている私にして見れば胡散臭い以外の何物でもないシロモノだ。なんだか背筋が寒くなりながら、私はむうっとくちびるを結んで尾形さんにジト目を向ける。
ちなみにこの後は、バレンタインデーにふたりで行きそこねた尾形さん行きつけの居酒屋さんへリベンジの予定だ。
尾形さんの話だと料理がおいしくて大将さんもすごくおもしろい人みたいだから、とっても楽しみ。