今日から昨日へ
「美里ちゃん。今日菊田先生がいらっしゃるから宜しくね?」


そう言ったママはいつもより化粧が濃くて、仕立て上がったばかりの白地にアゲハの模様の着物が似合っていた。

菊田先生はママの上客の1人で県議。いわゆる地元の名士ってやつで大きな食品会社も経営していた。
威張り散らすような人ではないし、気前は良く私達にとってもよいお客様でした。

でも、ちょっと自慢話が長い。
最近の先生の自慢の種は国会議員の元で秘書をしながら勉強している息子。

べた褒め…。


「美里ちゃんはうちの息子とも気が合いそうだ。今度紹介しよう」

と言っていたっけ…。

店の白い階段を降りる菊田先生が見えた。


後ろから黒いスーツを着た若い男の人が着いてくる。


「こんばんは。菊田先生」

にこやかな先生と控えめに頭を下げる息子。

「おぉ。美里ちゃんこんばんは。さぁ座って」



先生がわざわざ腰をあげ私を自分と息子の間に座らせる。


「はい。ありがとうございます。では失礼します」


隣の息子に挨拶をする。

「はじめまして。美里です」


柔和な笑顔を浮かべた息子が。

「こんばんは。菊田です」


「先生?こちらいつも話してた息子さん?」


ママは私が作った水割りを先生に手渡しながら聞いた。


「いや。コレは次男。長男はなかなか忙しくてな…」


ママが間の悪そうな顔をする。

自慢の息子のほうではないんだ。
ま、本人が知らないのが救いかな…。


「いいんだ。いいんだ。カッカカ~」


先生が豪快な高笑いをする。


暫くすると先生がマママに

「ママ。ちょっと込み入った話があるから席を移動しても大丈夫かな?」


私達を残しママと先生は席を離れた。

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