純愛小説家
それは、当初からあったことで。


「初?」
「ハワイとシンガポールしかない」


ふとした瞬間。
俺に気づかれないよう、時折、そういう表情(カオ)をしていた。


「…シンガポール」


入国手続きを済ませて、見せてもらったパスポート。
そこには確かに、スタンプが押されていて。


「宥は?うわっ。けっこう色んなとこ行ってる!」
「取材も兼ねて、が多いけど」
「さすがベストセラー作家!!っていうか。ほんと。今までの作品に出てきた国、多い」


三嶋は、シンガポールについて。
あえて何も、答えようとはしなかった。


「パスポート。もうすぐ期限、切れるんだ…」
「えっ?あぁ、うん。もう、かなりギリギリ。グアムって聞いた時、ちょっと焦っちゃった」


それでも。
現地に来ると、その表情はまるで違っていて。


「ん~。テンションあがってきちゃった」


俺もあえて。


「切れる前で良かった…」


それ以上は、何も聞かなかった。

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