純愛小説家
目に見えないだけで、残っているその何かを内にしまいこみながら。


─シャー…


俺は勢いよく蛇口をひねって。
それを顔に当てた。

三嶋の涙は、流さないように…。


「…って、もう、終わったの…?」
「すぐ済ませるって言ったろ?」
「それは、そうだけど…」
「どこ行きたい?」


太陽が月を隠すように。
俺たちの真実も。
その光が隠してくれる…。


「どこ…。いっぱいありすぎるんだけど…」
「いいよ。行けるだけ行こう」
「行けるだけ?」
「可能な限り。全部」


だから。
俺と過ごしたこの時間が。

俺のように、せつない時間として、三嶋の記憶には残したくなかった。


「ほんとに?」
「ほんと」


楽しかった…とはならないかもしれない。

ひとりの夜。
思い出して、また涙を流すかもしれない。

それでも…。

出来るだけ、いい思い出として…。

そして俺も。
それを思い出に…と。

< 124 / 298 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop