純愛小説家
でも。


「そこだけは聞き取れてたんだ」


“だけ”を、やたら強調する三嶋。


「自分から訊いてきたのに。聞いてないとかなくない?」


どうやら、ムダなあがき、だったらしい…。


「…ごめん」


俺は素直に謝る。
ただ。


“きれいなストーリー”


それはよく、俺の本に対して使われる言葉で。

【純愛小説】

言われてるからには、そういうくくりなんだろうけど。


「俺の本は、きれいって?」
「あ、うん」


でも。


「俺は、きれいな話を書いてるつもりはないんだ」
「えっ?きれいだよ?」
「きれいなだけのストーリーは、つまんないだろ?」


何度も言ってるように。
そんなつもりはない。


そんな俺に、三嶋はクスッと微笑んで。


「きれいだよ。ストーリーは、ね」


言った。

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