閃光は空を駆けて
新学期になっても、学校に来なかった。


いつの間にか、あたしの日常に入り込んでいた彼。


左斜め前に誰か座ると、彼じゃないかと期待する日々がしばらく続いて。


そのうち、座る人は違う人になった。


結局、彼の名前を知らないまま、あたしは高校を卒業した。


名前も、学校にも図書館にも現れなくなった理由も知ろうと思わなかった。


知ったからといって、どうなることでもないし。


それに、余計につらくなるから。


彼がいなくなったことで初めて知った、自分の気持ち。


あたしは……彼が好きだった。


名前も知らない。


言葉も、一度しか交わさなかった。


ただ図書館で顔を合わせるだけの、知り合いともいえない関係だったのに。


彼を好きになっていた。


一目ぼれでもない。


自覚して、急に気持ちが募ることもない。


じわじわと染み入るような恋があることを、このとき知った。

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