好き、の二文字が聞きたくて。

家から徒歩数十分の私の通っている高校は県内でも中の中くらいのごく普通の高校だ。

中学と距離もそう変わらず、比較的通いやすいこの学校には、中学の同級生も何人か通っている。

いつも通り下駄箱で靴を履き替えていると、突然背後から抱きしめられた。

次の瞬間覚えのある甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「るーり!おはよ!」

「ちか先輩!?びっくりしたー…」

そこには同じ軽音楽部の三年生、春田元親先輩がいた。

スラッと長い手足に整った顔立ち。

笑った時に見える八重歯がまだ幼さを残しつつある。

(相変わらずかっこいい人だなー…)

なんて見とれているのもつかの間、すぐに自分の置かれている状況に引き戻された。

「って先輩!離してください!!」

いつの間にか背中越しにいた先輩と向き合う形になっていた。

「ええーっ!いいじゃん!」

なんてことを言いながらどんどん先輩は迫って来る。

(ちょ、近い…)

ああだこうだ言っているうちに先輩は目と鼻の先。

あと数センチで鼻が触れてしまいそうなほど至近距離にいた。

「ちょっと先輩…!!近いです…!!」

やっとの思いで目の前にあった先輩の胸を押しのけた。

「っちえー。つれないなー瑠璃たんはー」

「そ、そーゆー問題じゃありませんっ!」

頬をぷくーっと膨らませる先輩はやはり愛嬌があって可愛らしい。
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