どうしようもないほど、悪人で
(一)
男の恋人に『されて』から、どれほどの日が経ったのか。
あの日より、私はどことも分からない部屋にいる。指名手配犯に家があると思えない。きっと住人を殺して勝手に居座っているのだろう。ベッドとテーブルと一脚のイスしかないこじんまりとした部屋だった。
男はいない。ふらりといなくなっては、またふらりと戻ってくる。主に、食べるものがなくなった時を見計らって。この前来た時は少量しか持ってこないから、もうそろそろで戻ってくると思うが。
やることも与えられない身としては、ほとんどの時間を眠ることでしか過ごせない。
あまり寝続けていては、いつかはそれすらも飽きてしまうと思えど、存外に私は怠惰な性格らしい。日に20時間は寝ても、また目を閉じれば深い眠りにつくことが出来る。
実際のところ、男が持ってくる食事には手をつけていない。寝るだけの生活に食事は不要の産物。そうして私は、今日もまた眠ろうとしていたのだが。
「んだよ、また食ってねえのか」
起きろ、と体を揺さぶられて目を覚ます。
固まった筋肉を動かす痛みにしかめっつらをし起きるのを躊躇っていれば、間髪入れずに体を起こされた。めまいもする。
飲めと水を口に入れられた。
むせる。背中をさすられ、労られた。
今度は少しずつ水を流し込まれる。
「お前さ、人形じゃねえんだから、生きろって。生きる生活すんの。飲め、食べろ。ほら、食事。お前が何食べても『まずいまずい』うるせえから、豪華なもん持ってきたんだ」
どこの貴族を襲ったのか、肉やら魚やら、ついで皿までもが無造作に入れられた袋を見せられた。食卓に並べてあったものをとりあえず『持ってきた』ところだろう。袋の中が胃袋のようにも思えた。
「まずそう」
「はあ?美味いって」
手始めにパンを頬ばる男。見本でも見せるかのようにうまいうまいと言う。私にもそのパンが手渡されたが食べる気にはなれない。