どうしようもないほど、悪人で
「あなたは、どうして殺人鬼に?」
「世界に復讐してんだ」
はあ?と声は出さずとも顔には出たか、そんな反応なら話さねえぞと怒られた。
しまりのある顔に戻しつつ、続けて下さいと促す。
「話したくねえけど、俺のこと知りたいって興味持ってんならやぶさかじゃねえからな。俺さ、産まれた瞬間から不幸まみれなんだよ。娼婦の子供で捨て子、物心ついたときから小間使いで虐げられ、成長と共に日に日に俺への扱いも酷くなってくるわけ。よくある話なんだけどよ、“よくある話にしたくなかったんだよ”、俺は。一生虐げられて死んで、はいおしまい。だなんてふざけんじゃねえ。俺を虐げた奴を殺して、はいおしまい。だなんてまだまだ足りねえよ。
俺のイラつきは収まらねえ。片っ端から人を殺していく内に、そもそもこんな奴らを産み出すこの世界が憎くなってさぁ。なら、発散するしかねえじゃん。世界っつー、無尽蔵相手に無制限の憎悪抱いてんだから、俺はまだまだ殺していくだろうよ」
確かに、“よくある話ではなくなった”。殺人鬼誕生の瞬間は、やはり理不尽な理由でしかない。
殺人は、憂さ晴らし。
とことん悪人なんだ。
そんな男が、私の一言で殺人をやめるのか。
興味本位も出て来たけど。
「……」
「あ?殺していいの?嫌いになんねー?」
「私の預かり知らぬところなので」
布団にくるまる。
興味本位でと付け加えている時点で、私はどこかで誰が死のうと構わないと思っている。
彼のやりたいことに口出すほど、正義の味方じゃない。
「お前も、一緒に復讐するか?やり方教えるぞ」
「殺人するなら、寝たいです」
あっそ、と食事を終えた男が添い寝してくる。くるまる布団ごと抱きしめて、いびきをかいて寝てしまった。早い。
数時間後、また出て行くのだろう。それまでの触れ合いだ。
男はやりたいものだと言っていたのに、不能なのかと思うほど彼はこれ以上のことはしてこない。
大切にされているというよりも、私に嫌われたくないから出来る行動。
犯せば嫌われる。至極単純。ーーけど。
「そもそも、好きも嫌いもよく分からないのですが」
心底、無関心。うっせ、と寝ているはずの人が私の鼻をつまんできた。