ジャスティス
男と女は庭や屋敷をまじまじと見ながら歩いた。



「ねーねー聖次、大きな池があるよ」



女は前を歩く男に好奇心を含んだように話しかけたが、男は無言だった。

善二は軽く後ろを振り返り、女に向かって軽く微笑んだ。



「あの池には旦那様の錦鯉や真鯉、鏡鯉が飼育されているのですよ」



善二はそう言うとまた前を向いた。

女はなにも言わず、自分の髪を触り俯いた。



玄関から左に反れた道を歩き、倉庫に着くと由良と善二は男の車の前で立ち止まった。



「鍵は付いています。門は車が近付いたら開くようにしてあります」



善二がそう言うと男は善二を睨み付けた。



「お前ら俺の車に傷付けてないだろうな?付いてたら弁償させるからな!!」



見渡せる範囲で車を確認するように見る男に、女はつまらなさそうに溜め息を吐いた。



「ねぇーもう行こうよぉ。私、寒いんだけど」



まとわりつくような甘ったるい声で女が男に言った。

男は舌打ちをすると運転席に乗り込みエンジンをかけた。

車の横に立つ由良と善二をこれでもかというくらいに睨み付け、アクセルをわざと吹かした。

男は車を発進させると庭にある道ではなく芝生を踏み潰しながら走っていった。

由良は大きく溜め息を吐くとバカにしたようにクスクスと笑った。



「本当、バカだね。たぶん傷が付いてた!って言いに来るんじゃない?」



「うん。でもさ、その前に善一が連れてきてくれるよ。車の傷なんて直しても無意味だし。ま、二度と乗ることもないだろうからね」



善二は車が走っていった後の芝生に付いたタイヤの跡を見て溜め息を吐いた。



「はぁー。明日、いや今日か、芝生の手入れし直さなきゃな」



「余計な仕事が増えちゃったね。久しぶりに心底に腹立つ相手に出会えた気がするね。ぜんちゃん帰ってくるから私達も中に入ろうか?」



門から出ていった車を見送ると由良はそう言って屋敷に向かって歩いた。

善二もまた、由良を追うようにして屋敷の中へと戻っていった。
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