ジャスティス
処刑
冷たい感覚に目を覚ますと、そこは見たことのない景色だった。

フロントガラスから見えるその前には白いセダンが止まっている。

回りを見るとそこは観客席もないサーキット場のような場所だった。

少し外れた箇所にはモータースのような場所もあった。

視界に映る女を真っ直ぐに捉えると、そこに立っていたのは自分を侮辱した、あの憎い女だった。

横には今、最も憎い使用人、善二が立っている。

顔の不快感に腕を上げようとして初めて自分が拘束されていることと水をかけられたことに気付いた。



「おはよう、聖治くん」



由良がそう言うと男は怒り狂ったように体を揺すり拘束を取ろうとした。

男の体は自慢の愛車の運転席にしっかりと固定され、右手はハンドルに固定されていた。

金属の手袋をはめているような感じだった。

指先は固い何かに挟まれているような感覚。

引き抜こうにも手首がハンドルにしっかりと固定されているため全く動かすこともできなかった。

かけられた水が髪から落ちて顔をくすぐる感覚に、自由な左腕で顔を拭うと服の袖がびっしょりと濡れた。



「ここから出せ!外せ!殺すぞ!!」



力任せに体を揺らし、どうにか拘束を外そうとするが絞められた箇所が痛むだけで全く外れなかった。







「あんたに今からチャンスをあげる」



由良は男に向かって言ったが男は聞く耳を持たず鼻息を荒くして叫びながら無駄に暴れていた。

由良は溜め息を吐くと持っていた雑誌で男の顔を殴った。

ガッと低い声が聞こえ、男の口から血が流れる。

雑誌が唇の上から歯に当たり、切れた箇所から血が流れた。

男は痛みからか、じわりと涙が滲むのを感じた。



「せーじくん。ちょっと静かにしてよ。落ち着きのない男って余裕がなくみえるからね。人の話はちゃんと聞こうね?」



由良が無表情でそう言うと男は顔を歪ませたまま、じっと由良を見た。



「今からあんたの大好きなことを思う存分させてあげる。
前に止まってる車を20分間煽ることが出来たらここから解放してあげる。
だけどルールがあるからよく聞いてね?

その1、前の車から1m以上10秒間離れたら罰1つ。

一度罰を受けたら暫くは離れても罰はないけど3分以上車を止めていたら罰を追加。

その2、前の車に追い付かれたら残りの罰を全部。

罰を全部受けたらここからは解放してあげる。

その3、前の車に追突はしない。

追突したらその場で罰全部だからね。

あ、罰を受けたあとに、わざと追い付かないように走るのもダメだよ。5分以内に追い付かなかったら罰受けてもらうから」



淡々と話す由良に男は怒りなら怒鳴った。



「ぜってぇやらねぇ!!外せぇ!!」



息を荒くし、左手で右手首を掴み引っ張ったりハンドルに固定された金具を力一杯に引っ張るが外れるわけもなく、ハンドルがガタガタと微かに動くだけだった。

由良は少し離れた善一に手を振った。

すると機械が動く音がゴーッと聞こえる。

由良は善一のいる場所を指をさすと男の顔を見た。



「拒否するなら、あれね」



由良の指の先には一台のミニバンが止まっている。

ゴーッという音が変化し、じわじわと左右の壁が迫っていた。

メキメキと音を立てながらミニバンは徐々に形を変えていく。

次第にバキバキと大きな音になり、潰れて小さくなっていく車。

機械が止まり、再び開いたときには車は跡形もなく潰れて薄くなっていた。

男は暴れることをやめ、車が潰されていく一部始終を見て背筋がゾワリとするのを感じた。



「拒否するならあの車みたいに処分してあげる。あんたにはもっとゆっくりじわじわと潰れてもらうけどね。
ぜんくん、車をあっちに移動させてくれる?」



横にいた善二に言うと、善二は近くに止めてあるリフトに向かった。

ヤバイ。

そう感じた男は目を見開きながら叫んだ。



「分かった!やるから止めろ!!」



男が叫ぶと由良は軽く微笑んだ。

やると叫んだ男の声を聞いた善二はリフトから男の前に止まった車に向かって歩いた。


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