ジャスティス
車の中で獣のように怒り叫んだ男。

そうこうしている間に車を潰した善一が由良の横に来て立つと男は善一の顔を睨み付けた。



「てめぇだけは絶対に許さねぇからな!」



男は善一を見るなりそう叫んだが、善一は苦笑いをした。



「あなたを地面に押し付けたのは私ではありませんよ、弟ですよ」



手をピンと伸ばして善二の乗り込んだセダンに腕を向けた。



「どっちでもいい!その面がムカつくんだわ!」



男は血の混じった唾を飛ばしながら叫んだが、善一は呆れたように一瞬笑った。

車に乗り込んだ善二がエンジンをかけると、由良は先程、男を殴った雑誌を運転席の窓から放り入れた。



「もっとまともな本でも読みなさいよ」



男は戻ってきた雑誌を左手で掴むと由良に向かって投げつけた。

しかし、雑誌は善一の手によって払い落とされた。



「前の車が走ったら行きなよ。せーじ君、煽るの大好きでしょ?頑張ってね」



微笑みながら軽く手を振ると、由良と善一は後方の階段を登りコンクリートの壁の奥に入っていった。

ブッと機械的な音が一瞬聞こえ、男の車に由良の声が聞こえた。



「エンジンはかかっているから、車を走らせる準備をしなさい。あと10秒したら車を走らせるから」



男はフットブレーキを外し、チェンジをDに入れると左手をハンドルに添えた。

善二の乗る車を睨み付け、車が走るのを待った。





煽り続ければ解放される。

そうしたらあいつら全員、ただじゃ済まさない。

絶対に許さない。

ボコボコにしてやる。





そう思っていたのだ。



善二の乗る車が発進し、男はアクセルを踏んでピッタリと張り付いた。

上半身をハンドルに近付け、前を走る車だけを食い入るように見つめる。

徐々にスピードを上げていく車に男もアクセルを踏み、必死で付いていった。

普段煽っているときとは違う、決められた線の中だけを走るものとは違い、横幅の広いアスファルトを善二の運転に合わせて左右に走ったりスピードを上げることは思った以上に難しい。

いつ踏まれるか分からないブレーキ。

男はハンドルにしがみつきながら善二のテールランプだけを見て必死で付いていった。
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