ジャスティス
車が走り出して5分、善二の車がスピードを上げた。

男は離されまいとアクセルを踏み込んだが、その瞬間にテールランプが点灯したのだ。

男は一瞬、体がザワつくのを感じ、叩きつけるようにブレーキを踏んだ。

ガクンと体が引力で揺れた。

途端に車の中からピーピーと警告音が鳴った。

善二の車が男の車から離れたのだ。

男は慌ててアクセルを踏み込んだが一度強く踏んだブレーキで落ちたスピードはアクセルを踏んでも上がらず。

ピピピピと音が小刻みに大きく鳴った途端、バチンと言う音が聞こえた。

ブレーキを踏まれたときとは違う、嫌なざわつきが男の体を襲った。

男の右手の人差し指が酷く重く、痺れているような感覚だった。

痛みはなかったが視線を手に向けると固定された手袋のようなものの隙間から真っ赤な血が流れだし、ポタポタと溢れていた。

じわじわと感じる痛みは次第に強くなり、男はブレーキを踏んで叫んだ。



「あ"ぁぁぁぁぁ!!指、指がぁーーー!」



唾液を滴ながら叫ぶ男の右手首は人差し指から流れ出た血液で真っ赤に染まっていた。

履いているズボンの太もも辺りにパタパタと血液が落ち、ズボンが赤く汚れていった。

ハァハァと息を荒くして体を震わせた男だが、再び車の中に警告音が鳴り響いた。

ピーピーと鳴り響く音、前を走っていた車はすでにだいぶ離れてしまっていた。

男は叫びながらアクセルを踏み込むと善二の車を追いかけた。

走り出すと警告音は鳴り止んだが、男はアクセルをベッタリと踏みつけて善二の車を追いかけた。

善二はバックミラーを見ながら、男が走り出すのを確認すると少しだけスピードを緩め、男が追い付くのを待った。

男の乗った車に再び警告が鳴り響くと男は獣のように叫んだ。

ピピピと忙しなく鳴る警告音だが、善二の車にピッタリと張り付くと音は止んだ。

男は指が痛むのも忘れて善二の車を煽った。

男がくっつくのを確認すると、善二は車内に設置された無線から由良へと喋りかけた。



「由良ちゃーん、どーする?」



「どーしようかな?ちょっと遊んであげる?」



「はいよ、りょーかい」



善二はアクセルを踏み込むとスピードを上げた。

バックミラーを確認すると男が何か叫んでいるのか凄い形相で必死でくっついて来るのが見えた。

善二はアクセルを更に踏み込むとグングンとスピードを上げていく。

カーブに差し掛かる手前、善二はグッとブレーキを踏むとハンドルを左にきりサイドブレーキを引いた。

逆にハンドルをきると素早くサイドブレーキを下ろしてアクセルを踏みこんだ。



目の前の車が急に滑り、自分の前からフッと消え、男は焦った。

警告音が鳴り、カーブを曲がるが、善二の車は男の車からグンと離れた。

音の感覚が短くなり、ピピピと忙しなく鳴った。

途端にパンッと弾ける音がまた聞こえた。






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