ジャスティス
キラキラと光が反射して眩しい。

目を開けたばかりだったが、その眩しさに目を細めてもう一度、瞼を閉じた。

身体中が痛み、口の中はネバネバして気持ちが悪い。

もう一度、目を開くと、眩しかったそれは水がライトに反射された光だった。





「うっ……ぁ…ぅ…あぁ……」



痛む体を無視して体を起こすと、そこには円形の大きなプールがあった。

そのプールの端から透明なアクリル板が飛び込み台のように二メートルほど伸びている。

その上に男は寝転がっていた。

左手首はロープで固定されており、繋がれたロープは真上の滑車に繋がっていた。

右の指を失った男には到底、ほどく事などできない。





「なんだよこれはっ!!」



恐怖に引きつった表情で、男は左手を懸命に振りロープを振りほどこうとしたがびくともしなかった。

ロープに噛みついたりもしたが、それすらもどうにもならなかった。

兎に角、プールの上から逃げようと、立ち上がると台の上から戻るようにして歩き、コンクリートの床に足を着けた。

どうにかして逃げたい。

その一心で、全体重をかけて左手首をロープから抜こうとするが手首がギリギリと絞まるだけで全く抜ける気配はなかった。

ロープで擦れた手首が赤くなり微かに血が滲むが、男は気にせずに手首を引いた。

入れすぎた力は留まれず、足を滑らせて尻からコンクリートに倒れた。

繋がった滑車がカラカラと乾いた音を出すだけだった。

ふとプールを見ると魚が泳いでいる。

それは一匹ではなく、何匹もおり、小さな群れとなってプールの中を泳ぎ回っていた。




なんだよ…これは…




また何かされるという恐怖が男を駆り立てる。

兎に角逃げたいーーーーー

男は手首を固定するロープを歯で噛みきろうと何度も何度も噛みついた。

ロープの繊維が口の中に付着し、歯茎が傷付いて血が出ても構わずに噛みついた。

だがロープは外れる気配もなく、男の血が滲むだけだった。

脱力感から男は膝を着き、顔を歪めて涙を流して嗚咽を漏らした。




「うっ…うぅっ…ひぅ…」



涙と血液の混じった涎がコンクリートにボタボタと落ちて染み込んでゆく。

その様子をすぐ近くで見ていた由良は、そっと男に近づいた。



「見た目によらず泣き虫」



「ぅわぁーー!あーっあーっ!」



気付いていなかった男は背後に立つ由良の声に驚き、叫んだ。

男の声に不快感を表し、目を細めた。



「うるさい。静かにしてくれない?」



そう言ったが男は由良の姿に恐怖を感じ、近付くなと言わんばかりに後ろに逃げた。


自分が先程までいたアクリル板の上までくると、更に顔を歪ませた。



「くるなぁ!!!もうやめてくれ、たのむっ!!」



土下座のように膝を付き、頭を下げた男。

由良は微笑みながら男に近付いた。



「これ、何か分かる?」



由良は持っていた物をさっと男の前に放り投げた。

鈍い音を立てて目の前に落とされた物を見た男は表情を崩しながら叫び、アクリル板に頭を擦り付けながら泣き叫んだ。



「俺が悪かったから!!もう二度と駐車もしないから助けてください!!お願いします!」



男の態度に由良は溜め息をつくと、腰を少しだけ曲げて言った。



「無断駐車をしないでって何度も言ったでしょ?それに、ここまでされなかったら今でもお前らなんかぶっ殺してやるって思ってたよね?友達連れてきてブッ殺すんだよね?火も着けちゃうんだよね、せーじ君はさ」



クスクスと笑いながらそう言うと由良は男の目の前に落としたモノを足で蹴飛ばした。



「こんな付け爪して生活するなんて私には無理だわ」



指に真っ赤な付け爪の付いた手首が男の後方のプールにポチャリと落ちた。

アクリル板には切断された箇所から流れた血液が少しだけ付着していた。
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