素直になれない雨と猫
「ユメちゃん、いつもありがとう! ひさしぶりに会えてうれしいなー!」



わたしの手をとってぴょんぴょん跳ねる彼女は、ユキちゃん。

ルノールのかわいらしい看板娘だ。

まだ五歳だというのにとてもしっかりしている。

透き通るような金髪に、エプロンと同じ色の綺麗な水色のカチューシャがよく似合っている。



「いつものでしょ?」

「うん」

「このクッキーすきだね、ユメちゃん」



お父さんからマーブルクッキーの袋を預かるユキちゃん。

わたしは彼女にコインを渡して、クッキーの入った袋をもらった。少し温かい。



「今日はお店のおてつだいがあるからだめなんだけど、今度またあそぼうね! 約束だよ!」

「約束ね」



ユキちゃんの小さな手をとってぎゅっと握る。

これがわたしたちにとっての約束の儀式だ。

相手の手のひらに自分の想いを刻むように、ぎゅっと優しく握る。




昔、こんな風にだれかと手を握り合ったことがある。

握り合った?

いや、だれかがわたしの手を包み込んでいた。記憶。







ユキちゃんのおてつだいを邪魔しないように、そそくさとその場を後にした。

人混みはわたしも苦手なのだ。

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