素直になれない雨と猫
早く修道院に帰りたい、と思う気持ちが足を進ませる。

そのせいだ。

小走りで広場を突っ切ろうとしたわたしは、前をよく見ていなかった。



「いたっ」



ばん、という音がしてわたしはだれかとぶつかった。

ぶつかった拍子に両手で抱きしめていたクッキーの袋が宙を舞う。


突然のことにパニックになってしまい、しばらく時が止まったようにさえ感じた。

実際は数秒のことだ。



「ちっ」



ぶつかった相手であろう人物からは、小さく舌打ちが聞こえた。

どうやらあまり好意的な人物ではなかったようだ。

目を合わせることはできなかったが、視界に入る相手の靴は泥で汚れていた。


幸いなことに相手はそれ以上なにもすることなく、その場を去っていった。

わたしはというとすぐに立ち上がればいいものを、情けなくその場に座り込んでいることしかできなかった。


だからクッキーのことに気付くのも遅れてしまった。
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