素直になれない雨と猫
「こんにちは」
伸ばした手が宙で止まる。
この声を最近どこかで聞いたことがある。
「また会ったね」
「……なんで」
見上げるとコバルトブルーの瞳と目が合った。
デジャブ、じゃない。まったく同じことが起こっている。
「クッキー落としたの?」
彼はわたしと視線を合わせるようにその場にしゃがんだ。
広場の真ん中だ。人の視線が集まっている。
いや、もっと前からわたしは彼らの見世物だっただろう。
伸ばした手をゆっくり引っ込めて、うつむく。
もうだめだ。動けない。
この前もそうだった。
この人の前だと動けなくなる。