素直になれない雨と猫



「こんにちは」






伸ばした手が宙で止まる。

この声を最近どこかで聞いたことがある。



「また会ったね」

「……なんで」



見上げるとコバルトブルーの瞳と目が合った。

デジャブ、じゃない。まったく同じことが起こっている。



「クッキー落としたの?」



彼はわたしと視線を合わせるようにその場にしゃがんだ。

広場の真ん中だ。人の視線が集まっている。

いや、もっと前からわたしは彼らの見世物だっただろう。


伸ばした手をゆっくり引っ込めて、うつむく。

もうだめだ。動けない。

この前もそうだった。

この人の前だと動けなくなる。


< 15 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop