素直になれない雨と猫
シーメルトの天候は移り気で、さっきまで晴れていたと思えば急に土砂降りの雨が降りだしたり、反対に嵐が一瞬で快晴になったりする。

だからシーメルトの人々は、必ず傘を持って外にでかける。

いつ雨が降りだしてもいいように。

四季は春夏秋冬と順に廻っているのに、こうやって天気が不安定な所為で、たまに今の季節がわからなくなってしまう。


止む気配のない空を見上げて、わたしは小さく溜息を吐いた。

通りすがった靴屋の小さな庇では完全に雨を凌ぐことができなくて、わたしの黒いブラウスはみるみるうちに濡れていく。

ここで待っていても誰かが迎えに来てくれる当てはない。

雨は降り続けるかもしれないし、一秒後に止むかもしれない。

本当にどうしようもなく、わたしは雨に濡れているしかなかった。

お尻が濡れるのを覚悟の上で、両膝を抱えてコンクリートの地べたに座り込む。


私は捨てられたあの日を、思い出していた。

膝に顔を押しつけて、ただ時が経つのを待つ。
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