素直になれない雨と猫
2.わたしのすむせかい
「ただいま」
修道院に帰ったとき、既に雨は止んでいた。
修道院といっても今はその面影はない。
小窓が沢山並んだ煉瓦造りの壁は大部分が崩壊しているし、一部天井が無かったり、手入れの行き届いていない蔦が至る所に絡み付いていたりする。
まるで時が止まったみたいに、ここだけが静かだ。雨は、降り続いてくれない。
「遅かったじゃないか、由芽(ゆめ)」
わたしの声を聞きつけたのか、奥から代里が現れた。
萱瀬代里(かやせより)。
シーメルトには不釣合いな、黒地に赤椿の模様が入った着物を纏った彼女の姿は、わたしを一番安心させてくれる。
わたしが知る限り、シーメルトで和服を着用している人間は、代里だけだ。
代里は切れ長の瞳を細めて、キセルを咥えていた。
その瞳は綺麗な蘇芳色をしている。わたしの真っ黒な瞳とは大違い。
代里とわたしの共通する部分といえば、黒髪であることだけだろうか。
「雨が降ったから、雨宿りしてた」
「それにしては濡れてるな」
確かにわたしは頭から足の先まで濡れていた。
シーメルトの甘い雨を吸った身体から、溶けた飴のような匂いがする。
くんくん、と自分の腕に鼻を寄せていると、目の前の廊下から見慣れた女性が歩いてくるのが見えた。
修道院に帰ったとき、既に雨は止んでいた。
修道院といっても今はその面影はない。
小窓が沢山並んだ煉瓦造りの壁は大部分が崩壊しているし、一部天井が無かったり、手入れの行き届いていない蔦が至る所に絡み付いていたりする。
まるで時が止まったみたいに、ここだけが静かだ。雨は、降り続いてくれない。
「遅かったじゃないか、由芽(ゆめ)」
わたしの声を聞きつけたのか、奥から代里が現れた。
萱瀬代里(かやせより)。
シーメルトには不釣合いな、黒地に赤椿の模様が入った着物を纏った彼女の姿は、わたしを一番安心させてくれる。
わたしが知る限り、シーメルトで和服を着用している人間は、代里だけだ。
代里は切れ長の瞳を細めて、キセルを咥えていた。
その瞳は綺麗な蘇芳色をしている。わたしの真っ黒な瞳とは大違い。
代里とわたしの共通する部分といえば、黒髪であることだけだろうか。
「雨が降ったから、雨宿りしてた」
「それにしては濡れてるな」
確かにわたしは頭から足の先まで濡れていた。
シーメルトの甘い雨を吸った身体から、溶けた飴のような匂いがする。
くんくん、と自分の腕に鼻を寄せていると、目の前の廊下から見慣れた女性が歩いてくるのが見えた。