素直になれない雨と猫
ところどころ崩れ落ちた木製の梯子を上る。

片手にトレイ。片手は梯子に添える。


ナオがいる場所は、もともとここにあったものではなく、壊れた建物の上に無理やり作った屋根裏部屋だ。

屋根を作ったついでにナオが自分で作ったという。

相変わらず器用なやつだなと思うが、人間関係は不器用だからどうしようもない。

人のことなんていえないけど。



雨が降るとここは湿気でさらに足場が悪くなる。

荷物があるので若干ふらつきながらも上までのぼると、そこはもう暗闇だ。

しばらくぼーっとしていないと目が慣れない。



「ナオ、ホットミルク持ってきた」



わたしが暗闇に向かって声をかけると、前方でがさごそ微かな音がした。



「んー、さんきゅ。持ってきて」



ナオの言葉に素直に従う。

屋根裏部屋に足を踏み入れると床がみしっと軋んだ。

空気がじめじめしていて、あまりいい環境とは思えなかった。



「なにしてるの」



部屋の隅まで行くと、一つだけある窓のそばに少年が寝転んでいた。

窓から外を見る彼の横顔は、起きているのか寝ているのか一目見ただけではわからないくらい、気だるげだった。

彼の髪はわたしと同じで黒く、暗闇に半分くらい溶け込んでいる。



「人間観察」

「おもしろい?」



彼のそばまで来てトレイを床に置く。

ナオはそれを気にすることもなく、外を見たままだ。



「ばかみたいだなって思う」



ぽつり。

ナオがつぶやいた言葉は、わたしの胸にすとんと落ちた。

あまりにも自然な言葉だった。
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