素直になれない雨と猫
「今日、へんな人に会ったの」



ナオがやっと人間観察をやめてホットココアを手にしたので、わたしもマグカップを手に取った。

そこでなんとなく口にしたのだ。さきほどのことを。



「は? へんなやつなんていっぱいいるだろ」



いまさら何言ってんだよ、と呟きながらナオは眉間にしわを寄せた。

たぶんナオとわたしもそのへんなやつの分類に入るんじゃないかと思う。



「わたしあの人のこと嫌い」



ホットココアに口をつける。甘い。

ここに来るまでの間に少し冷めてしまったけれど、わたしの身体を温めるには十分だ。



「おれだって嫌いだよ。あいつもそいつも」



窓の外を指してのことだろう。

ナオが嫌いなものはたくさんある。

明るいところ、人込み、家族連れ、街を歩くすべての人。

ナオの嫌いなものの中にわたしは含まれているのだろうか。

微妙なところだな、と思う。


わたしだってみんな嫌い。

でも好きな人だっている。

代里も密花さんもナオも。

それに町で遊ぶ子供たちだって、わたしの好きな人だ。



でも、あの人のことは嫌いだってすぐに思えた。

理由なんてなく、単純に嫌いだって。

とにかく口にしないといけない気がしたのだ。

ナオに伝えたかったわけではなく、言葉にして形にしたかった。



「嫌いだな」



雨もあの人も。わたしの嫌いなものばかり重なっていく。
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